精子のDNAの断片化
精子にも当然DNAがあり、これによって父親の遺伝子が子に受け継がれるのですが、これらが損傷を起こすことがあります。損傷の程度により断片化(fragmentation)することもあります。精子のDNAの断片化率をDFI : DNA Fragment Indexと呼んでいます。今回ご紹介する論文は、このDFIが25%以下である場合、それ以上の場合と比較し、自然妊娠ができる率が5倍以上高いことを報告しています。
Fertil Steril.2016 Mar:105(3):637-644.el
精子のDNAfragmentationとミトコンドリアの膜のポテンシャル(MMP、mitochondrial membrane
Potential)が、標準的な精液検査で得られたパラメーターよりも自然妊娠の確立を予測する上で優れているか否か検討した。85名の不妊男性と51名の妊孕性が確認されている男性を対象に前方視的横断面的研究を行った。精子DNAfragmentationの評価とMMPの検査および標準的精液検査のパラメーターを6~12か月にわたって観察した。DNAfragmentation、MMPおよび標準的精液検査のパラメーターをそれぞれ独立し、また併用し自然妊娠の成立との関係を比較した。
不妊カップルにおいては31%(26/85)が妊娠に至った。DNAfragmentationおよびMMPの中央値は観察期間中に妊娠に至った男性群と妊孕性が確認されているコントロール群の男性とに差異は認められなかった。DNAfragmentationとMMPの至適閾値をROCカーブを用いて調べたところ、DNAfragmentationが25%とした場合、そのAUCは0.70、またMMPの閾値を62.5%とした場合、そのAUCは0.68という結果であった。
DNAfragmentationが25%以下およびMMPが62.5%以下の不妊男性群において妊娠に至るオッズは有意に上昇し、それぞれのオッズ比は5.22と4.67という結果であった。正常精液所見は自然妊娠を予測することはできず、そのオッズ比は1.84で統計的有意差は認められなかった。精子機能検査を併用した場合、自然妊娠のオッズは有意に上昇し、そのオッズ比は8.24、いずれも正常と判定された場合の自然妊娠の確立は60.7%、異常と判定された場合では15.8%にとどまった。(以上、日本語訳 IMT college国際医療技術研究所 より)
このことは、自然妊娠ができるかどうかを予測する場合、通常の精液検査もさることながら、DFIを検査し25%以下であること、MMPが62.5以下であることも重要な所見であり、併用することの有用性を示唆しています。