パイプカットしても妊娠したくなったら?
いったん切断した精管をつなぐ手術を精管ー精管吻合術と言います。
これは切断した断端を縫い合わせ、精液の通り路をつくり、射出(射精)できるようにする手術です。
では、このように復元した精管を通ってきた精液で、自然妊娠は可能でしょうか?
精管をつなぎあわせると自然妊娠が可能なことも
以前に妊孕性(妊娠させることができること)が確認されている男性においては、一般の正常者と比較し、精管復元術後の精液所見のパラメータ(精子濃度、精子運動率、正常形態率)が有意に低い値を示しても、十分に自然妊娠が期待できることがわかりました。
2010年WHOが示した精液のパラメータの正常域は、一般的には妊娠できるかどうかの指標にはなりますが、精管復元術後の自然妊娠の予測の値とはならないと思われます。
下記に論文を紹介します。
過去に精管を切った139人は?
精管復元術は選択的避妊手術を受けた男性が再び児を得たいという場合に実施される。手術後の精管開通の予測因子に関する理解は深まったが、患者の精液所見と妊娠の可能性との関係についてはよくわかっていない。
そこで、2000〜2014年にかけて精管復元術を受けた 139 名の患者を対象に後方視的症例コントロール研究を行った。主たる評価項目は妊娠率と精液所見とした。患者と配偶者の年齢、避妊の手術からの期間、 術中所見、実施された手術方法、術後の精液所見、白 然妊娠率などに関するデータを収集した。
精管をつないで妊娠できるのは約半数
精管切除術後の平均期間は 9.5 年であった。 自然妊娠は 49.6 % (69/139)に認められた。自然妊娠は術中の精管に含まれる液体の質および術後の精子濃度、運動率および、strict criteria に基づいた精子形態で判定した正常精子の割合などと相関した。
妊娠できた人の精液所見は・・
自然妊娠に至った患者において術後の精液所見を調べたところ、2010年のWHO の基準で示された正常値よりも有意に低い値であった。自然妊娠に至った患者の割合は、精子濃度が500 万/ml 未満は 15% 、精子運動率が10%未満では 21.3% 、正常形態精子が 1%未満では 14.8% という結果が得られた。(訳 IMT college テキスト)
Vasectomy reversal semen analysis: new reference ranges predict pregnancy.
Ferti & Sterti 2017 Apr;107(4):911-915.
まとめ
精液所見は、通常WHOでの基準値よりも低くても、妊娠することができる、また精子濃度、精子運動率、正常形態率だけでは計れないパラメータがあるのかもしれない、ことが考えられます。女性パートナーがまだ若い場合などは、精液所見が悪いからといってすぐに体外受精や顕微授精にしなくても、自然妊娠の可能性があるということがわかりました。